大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所宮崎支部 昭和28年(ラ)3号 決定 1953年7月27日

抗告人 加藤ツタ

事件本人 亡西田与助

主文

原審判を取消す。

本籍鹿児島県○○○市○○○○○丁○○番戸西田与助の戸籍中昭和弍拾年六月○○日午前〇時○○○市○○○町○○番地に於て死亡同居者県一男(○一男の誤記と認める)届出同年七月○日受付、昭和弍拾壱年参月○日西田治の家督相続届出アリタルニ因り本庁戸籍を抹消すとある部分を抹消する。

理由

本件抗告申立の要旨は抗告申立人は本籍○市○○○○○町○○○番戸戸主西田与助の三女であるが、右与助は戸籍上『昭和二〇年六月○○日午前〇時○○○市○○○町○○○番地に於て死亡同居者県一男(○一男の錯誤)届出同年七月○日受付』と記載せられ除籍されているが、右の死亡届は昭和二〇年六月○○日の空襲の際焼死したものとして形式的に警察官の検視調書を添付して届出でられたものであつて、事実は右与助の死体は確認せられるに至らなかつたのであるから右戸籍の記載は錯誤である。抗告申立人は右の理由により右戸籍の訂正許可を求めたところ原裁判所は右死体の確認は得ないにしても、○一男等の証言により戦時中の混乱した状勢から推察して与助は昭和二〇年六月○○日の空襲により死亡したものと認めるの外ないのであつて、該死亡届には官公庁より交付せられた検死調書が添付せられていたのであるから、右死亡届によつてなされた戸籍の記載を錯誤と認めることはできないとして抗告申立人の請求を却下したのである。しかしながら西田与助の死体は前記のように確認せられたものでないだけでなく死亡届に添付せられた検死調書も着衣その他の点を綜合すると西田与助とは全く別人の死体についての検死調書であることが明らかであるから前記死亡届による戸籍の記載は錯誤によるものといわなければならない。従つて原決定を取消し抗告申立人の申立通りの裁判を求めるため本抗告に及ぶというにある。

記録添付の西田与助の除籍謄本の記載によると右与助の戸籍は昭和弍拾年六月○○日午前○時○○○市○○○町○○番地に於て死亡同居者県(○の誤記と認める)一男届出同年七月○日受付昭和弍拾壱年参月○日西田治の家督相続届出ありたるに因り本戸籍を抹消すとあり、西田与助の死亡届が受理せられその戸籍を抹消せられたことは明らかである。しかして原審で取調べた証人○一男、同浜口正哉の証言と空襲被害の状況から推察すると西田与助は右空襲により発生した火災のため焼死したこともおよそ推測するに難くないのである。なお右○一男の証言と同人名義の西田与助の死亡届謄本によると前記戸籍の記載は右実状の下に西田与助の同居者として○一男が与助の死亡診断書又は検案書を得ることができなかつたので警察官の行政検死調書を死亡の事実を証すべき書面として添付届出で、受理せられたものであることが認められる。しかるに戸籍法第八六条によると死亡の届出には死亡診断書又は検案書を添付してこれをしなければならない。やむを得ない事由によつて診断書又は検案書を得ることができないときは、死亡の事実を証すべき書面を以てこれに代えることができるとあるところ、右死亡届に添付された行政検視調書が診断書に代えることのできる死亡の事実を証すべき書面であるか否かの点について考えると、右死体は昭和二〇年六月○○日午前〇時頃○○○市○○○町○○○ビル内で焼死した男死体であることは明らかであるが飜つて証人○一男、浜口正哉の証言からすると右死体は着衣その他の関係からしても西田与助の死体でないと認められる。

従つて右の行政検視調書は戸籍法第八六条に死亡の事実を証すべき書面とは認められない。凡そ人の出生又は死亡に関する事項はその人の生死とその及ぼすところの法律上の効力は財産関係親族関係等に重大な影響があるのであるから特に死亡の事実については戦鬪、船舶の沈沒等およそその人が死亡したことが推認せられる場合であつても民法第三〇条第二項による失踪宣告によりこれを確定しなければならないのであつて戦災、水災等のため多数の死亡者が発生して生死不明となつた場合においても右の除外例となるのではない。従つて西田与助が前記戦災により死亡したことは推認せられるのであるけれども右の死亡届について戸籍法第八六条による書類が得られない以上民法第三〇条の規定により失踪宣告の手続によるの外死亡の事実を確定すべき法律上の手段はないものといわなければならない。しかるに原裁判所においては証人の証言と戦時中の混乱した状勢とを綜合して西田与助が死亡したものと認めるの外ないとして該死亡届は錯誤により記載せられたものではないと認定したのであるが、該死亡届に添付せられたいわゆる検死調書は戸籍法第八六条に死亡の事実を証すべき書面に該当しないものであるから該死亡届は錯誤により記載せられたものと断ずるの外ないのであつて結局本件抗告は理由があり、原審判はこれを取消さねばならない。

右の次第であるから家事審判規則第一九条第二項により原決定を取消し西田与助の戸籍中主文第二項掲記の記載部分は錯誤による記載としてこれを抹消すべきものとして主文のとおり決定する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例